ますます需要高まるポリイミドフィルム
ノートパソコンやデジタルカメラなどの電子機器を分解したことがあれば、基板と基板との間が薄茶色のフィルム状の配線で接続されているのを目にしたことがあるだろう。またときには、基板自体が薄茶色のフィルムで覆われた柔軟性のある構造となっている場合もある。これらのフィルムや基板はフレキシブルプリント基板(FPC)と呼ばれ、薄茶色のフィルム部分に使われているのがポリイミドという樹脂である。
ポリイミドは耐熱性や耐寒性、機械的靭性、電気特性(絶縁性)にきわめて優れた素材で、電子機器のFPCのほか、航空機や機関車等のモーターの耐熱性絶縁材料、さらには耐熱性・耐寒性・耐放射線性を生かして「IKAROS」などの人工衛星用の被覆材にも活用される、スーパーエンジニアリングプラスチックである。
カネカはデュポンが独占していたポリイミドフィルム市場に、「アピカル」という商標で自社のフィルムを生産・販売。とくに、高い精度を要求されるFPC向けにおいては、日本を代表するポリイミドフィルムメーカーである。
スマートフォンやタブレットPCの普及に伴い、ポリイミドフィルムの需要は今後もさらに高まると見込まれているが、一方で最近は韓国や台湾などのメーカーもポリイミドの生産を本格化させており、いかにして価格を抑えながら増産を図っていくかが大きなテーマとなっている。こうした状況の下、2012年にスタートしたのがここでご紹介するマレーシアでのアピカルプラント新設プロジェクトだ。
2012年3月、カネカはマレーシアにあるカネカマレーシア工場内に、アピカルの生産プラントを新設することを決定。プロジェクトのリーダーに任命されたのは、滋賀工場でアピカルの製造グループリーダーなどを務めてきた西田哲也だった。
「社内では2011年から1年かけて新たな海外生産拠点の検討を進めてきました。マレーシアを選んだのはいろいろ理由がありますが、まず大きいのはコストの面。人件費はおおむね日本の3分の1。カネカマレーシア工場内の敷地を利用することで初期投資コストも抑制できます。二番目はインフラが安定していること。天然ガス産出国のため水や電気などのユーティリティが確保しやすく、調達コストも相対的に低い。最後に、マレーシアは日中韓とFTAを締結しており、交易条件の面でも有利といえます」
当時、アピカルは滋賀工場とKNA(カネカノースアメリカ)で生産されており、マレーシアに工場ができれば世界3拠点でのアピカルの生産体制が完成する。これによりトップシェアを維持する作戦だ。
「基本的には、滋賀工場にあるアピカル生産プラントと同じ設備をマレーシアに新設しますが、単なるコピーにとどめず、能力増強のための工夫も盛り込むことにしました。」(西田)