初の海外工場は、想定外の船出
世界4位に相当する2億5500万人の人口を抱え、今後、大きな経済成長が期待されるインドネシア。今、この国の食卓にのぼるパンの「質」をカネカの製パン材料が変えつつある。堅くパサついたパンから、ふんわりとした日本風のパンへ。その流れを生んだのがカネカの製パン用フィリング(カスタード・チョコクリーム等)や油脂系機能材(マーガリン・ショートニング等)である。しかしその歩みは一筋縄ではいかなかった。
カネカの食品事業がインドネシアに事業拠点を設立したのは2013年10月のことである。ジャカルタから南へ50km下ったカラワンに菓子パンなどに詰める具材の材料であるフィリング等の加工油脂製品の製造・販売拠点として「PT. Kaneka Foods Indonesia」を設立。翌年1月に工場が完成し、2月から稼働を開始した。カネカの食品部門にとってはこれが初の加工油脂事業としての海外進出であり、絶対に失敗はできないプロジェクトのはずだった。しかし「最初の1年ほどは、苦戦の連続であった」と兼重は言う。
「理由はいろいろありますが、一番大きかったのは食文化の違いです。食べてもらえば違いが分かるはずでしたが、地元の普通のパンのフィリングはチョコ等水気が無い固形物のようなフィリング。しっとりしたクリーム状で水気たっぷりの日本風フィリングは異質でした。また、価格も高くなり、なかなか消費者に手を伸ばしてもらえなかった」(兼重)
販売数量の伸び悩みが続いて、手をこまねいているわけにはいかなくなった。商品開発センター長の兼重の役割は日本国内で技術を統括することであり、本来、現地に入る予定はなかった。しかし現地の営業部隊が苦戦を続けている様子を見て「日本から人を送り込んで総力戦で、顧客を開拓するしかない」と腹をくくって現地に飛んだのである。