アフリカ女性の自立を象徴する「つけ毛」
砂埃立ち上る、ナイジェリア最大都市ラゴス。渋滞と人いきれの合間を縫うようにこの街を歩く日本人男性がいた。彼の視線は行き交う黒人女性の「頭」に絶え間なく注がれている。今、ここではどんな髪形が流行っているのだろう。髪の長さは、色は、カールの具合は・・・そして次に流行るのは何か?
竹村正弘。つけ毛やファーなど人工毛の素材として使われる合成繊維、「カネカロン」の営業マンだ。現地調査や販売活動のため年間の三分の一をアフリカ各国で過ごす。カネカロン事業部に脈々と続く、「現場主義」の魂を受け継ぐ人材の一人である。
カネカロンのアフリカ市場進出は今から30年以上前に遡る。1983年、ニューヨークに出張していたカネカの営業マンが、セネガルから来た黒人がカネカロンのつけ毛を大量に買い込んでいるのを目撃し、すぐその足でアフリカに飛んだのが始まりだ。
以後、代々の営業たちが自らの足で販路を拡大していった。
「市場を直接見ること」
カネカロン事業部のDNAである。全てのビジネスにおいて同じことが言えるのかもしれない。しかしカネカロンの、こと頭髪装飾分野の場合、そのメイン市場は遠くアフリカに広がる。行くだけでも大変なその土地から、ビジネスに使えるような正確な情報をとってくることは、商社であっても長年困難を極めてきた。ほかの海外市場とはわけが違うここアフリカに、それでもカネカの営業たちは足しげく通った。今、カネカロンの事業は「商社を介さないグローバルビジネスモデル」を確立し、他業界からも注目を集める。
アフリカの女性たちにとって、つけ毛は欠かせないアイテムだ。
「彼女たちの髪はそのままでも自然で美しいのですが、カールの強い髪は、櫛をとかすのが大変など、不便な面もあります。そこで、生活が豊かになるにつれて、より手軽にヘアスタイルが楽しめるアイテムとして「つけ毛」、すなわちウイッグやエクステンションが普及しました。ヘアスタイルのバラエティが豊かなうえ、忙しい生活の中でも短時間で身だしなみを整えることができ、アクティブに活動する助けになるんですよ」そう説明するのは商品開発グループの織田雪世だ。彼女は過去、学生時代を含めてガーナに8年住みながらガーナ人美容師の研究や現地での国際協力業務に携わってきた。その後、カネカロン事業部のメンバーとなる。彼女はアフリカ女性にとっての「つけ毛」の意味をこのように語る。
「女性たちは、自分が素敵であるというただそれだけのことで、自信や前向きに生きる勇気をもち、いわば10歩でも100歩でも遠くに歩いて行ける。私たち日本人が考える以上に、彼女たちにとって、つけ毛は大事なものなのです」
つけ毛はアフリカ女性の自立と社会進出を象徴するアイテムといっても過言ではない。その代表的な素材であるカネカロンという名前は、研究者時代の織田の脳裏にも深く刻まれていた。
「ガーナの美容室でカネカロンのロゴをよく目にしたので、ずっと気になっていました。だからカネカで働けることになったときは、すごくうれしかったですね」