ヒトiPS細胞の大量培養の新技術を開発
2017/03/14
株式会社カネカ(本社:大阪市、社長:角倉 護、以下、カネカ)は国立大学法人東京大学(東京都文京区、以下、東京大学)酒井康行教授と共同で、ヒトiPS細胞を浮遊培養*1で大量に培養する新技術を開発しました。今回の成果は、世界で初めてヒトiPS細胞を適度な大きさの凝集塊に抑制する脂質類*2を発見したことにより、iPS細胞を容易に大量培養することを可能にしました。本技術では10億個以上のヒトiPS細胞を培養することに成功し、ヒトiPS細胞を用いた再生医療の実現に向けて大きく前進させる成果と考えられます。なお、この成果は3月7日より仙台で開催された第16回日本再生医療学会総会で発表しました。
ヒトiPS細胞は単細胞状態では浮遊培養で増殖することができないため、細胞同士を集めて適度な大きさの凝集*3塊を作製するステップが必要になります。培養中にかき混ぜる速度が速いと物理的なダメージにより細胞は死んでしまい、一方で、かき混ぜる速度が遅すぎると塊が大きくなり過ぎて細胞が増殖できないという課題がありました。今回発見した脂質類を微量添加した培地に単細胞状態のヒトiPS細胞を混ぜ、穏やかに揺らしながら培養するだけで適度な大きさの凝集塊となり、従来から一般的に使われている市販の培養容器*4で10億個以上のヒトiPS細胞を培養することに成功しました。従来の平面培養ではなく浮遊培養でヒトiPS細胞を増やすことで、コストをおよそ3分の1に、作業時間をおよそ10分の1に削減できるため*5、ヒトiPS細胞を用いたさまざまな再生医療の実現に大きく貢献することが期待されます。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の再生医療実現拠点ネットワークプログラム*6「iPS細胞を基盤とする次世代型膵島移植*7療法の開発拠点」プロジェクトにおける成果であり、2013年に東京大学、国立研究開発法人国立国際医療研究センター、ならびに公益財団法人実験動物中央研究所と共同でスタートしました。本プロジェクトでは2020年にヒトでの臨床試験開始を目指しています。
当社ではさらなる技術開発とイノベーションにより、再生医療の重要課題であるコスト削減にチャレンジし、細胞調製事業の低コスト化と再生医療の早期実現を目指しています。
- 浮遊培養:液体の培地中で細胞を浮遊させながら培養する方法。大量に細胞を培養するのに適している。
- リン脂質の一種である、リゾホスファチジン酸およびスフィンゴシン-1-リン酸。
- 凝集:細胞などの小さなものがたくさん集まって塊となる状態のこと。
- 三角フラスコ、培養バッグなど。
- 「2014年 生物工学会誌-第92巻-第9号–P483~486」参照
- ヒトiPS細胞などを用いた再生医療で、世界に先駆けて臨床応用を目指すために研究開発を進める事業。当社が関わる「iPS細胞を基盤とする次世代型膵島移植療法の開発拠点」テーマの拠点長は東京大学の宮島篤教授。
- 膵島移植:膵臓からのインスリン分泌がないインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)に対する治療法の一つで、インスリンを産生するβ細胞を移植して血糖をコントロールすることを目的とし、膵臓の内部に島の形状で散在する細胞群である膵島(ランゲルハンス島)のみを取り出して、局所麻酔下に肝臓内の血管である門脈に注入する細胞移植療法。
<凝集塊形成後の顕微鏡写真>